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GLP-1で筋肉も落ちる?マンジャロ・ウゴービ・ゼップバウンドのデータと対策

監修:小林 正敬(こばやし まさたか)|まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事兼院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医・日本内科学会 総合内科専門医・日本糖尿病協会療養指導医・日本東洋医学会所属。 最終更新:2026年10月

結論を先に:GLP-1薬による減量では筋肉を含む除脂肪量も減りますが、主に減るのは脂肪です。「減った体重の25%は筋肉」は除脂肪量の話で、食事だけの減量でも起こる範囲です(出典2、9)。

除脂肪量は、筋肉だけでなく水分や臓器も含む、脂肪以外の重さです。私は、タンパク質と筋トレ(レジスタンス運動)、減量ペースと用量の調整に加え、薬をやめた後も続けられる食事・運動まで一緒に考えます(出典16、18、36)。

体重は減ったのに階段で脚がだるい。顔がこけたように感じ、体組成計の筋肉量も下がっている。そんなとき、「体重が減っているから大丈夫」と言われても、体の変化に不安が残るのは自然なことです。知りたいのは、減量できたかだけでなく、仕事や日常生活を元気に続けられるかどうかだと思います。

私も診療で、体重とともに筋肉量まで減っている患者さんを診てきました。今日から取り組める食事と筋トレ、薬をやめる前に整えたい生活について、研究結果と診療での経験をもとにお伝えします。長期のフレイル(体力や生活機能が落ちた状態)への影響など、まだ分からないことも分けて説明します。

この記事でわかること

  • 減った重さのうち脂肪と除脂肪量はどれくらいか
  • 家庭用体組成計の筋肉量表示の受け止め方
  • タンパク質の目安と食欲がない日の食べ方
  • 家でできる筋トレと増量を急がない理由
  • 中止後の体重・体組成について分かっていること
  • 診察で筋肉量や血液検査を確認する意味

主な更新履歴: 2026年10月4日 初版公開

目次

1. 早見表(30秒でわかる要点)

筋肉を含む除脂肪量も減りますが、主要試験では減った体重のおおむね4分の1〜3分の1で、残りは脂肪です。

気になること 要点
筋肉は落ちるか 筋肉を含む除脂肪量も減りますが、主要試験では脂肪の減少が上回りました(出典1、2)。
ウゴービの変化 ウゴービ(STEP 1・68週・140人)では、除脂肪量は開始時から約1割減り、脂肪量は−19.3%でした(出典1)。公表推定値。詳細は第2章の表へ。
マンジャロ・ゼップバウンドの変化 マンジャロ・ゼップバウンド(SURMOUNT-1・72週・160人)では、除脂肪量は開始時比−10.9%、脂肪量は−33.9%でした(出典2)。公表推定値。詳細は第2章の表へ。
割合の意味 「減った体重の25%」なら、減った体重20kgのうち除脂肪量は5kg分。
減りやすい人 高齢、タンパク質不足、急な減量、運動不足、2型糖尿病、閉経期、標準体重に近いことが、筋肉の減少に気を配りたい条件です(出典4、10)。
対策5つ タンパク質、筋トレ、減量ペース、用量調整、筋肉量と血液検査の確認を組み合わせます。
やめた後 体重は戻りやすく、中止後の筋肉の研究は限られています(出典32、38)。
研究の最前線 ビマグルマブは第2相の研究段階で、日本未承認です(出典42〜44)。
診察で見ること 確認項目は筋肉量、食事量、症状、血糖と肝機能、やめ方の計画です。

(スマートフォンでは表を横にスクロールできます)

「自分の筋肉もこれだけ減るのか」と不安になった方は、まず次の章で、試験の数字と体組成計の表示が何を指すのかを確かめてみてください。

2. GLP-1薬で体重が減ると、筋肉も落ちる?

筋肉を含む除脂肪量も減りますが、主要試験では脂肪のほうが多く減っています。除脂肪量の減少と筋力の低下は別です。

ウゴービ・マンジャロ・ゼップバウンドのDXAデータ

セマグルチド・チルゼパチド・カグリセマのDXA検査では、脂肪量と除脂肪量の両方が減りました。マンジャロは、体重を減らす作用もある2型糖尿病の薬です。同じ成分チルゼパチドが肥満症にはゼップバウンドとして承認されているため、表では同じ行にまとめています(出典36)。

DXAは脂肪量と脂肪以外の組織量を調べる検査です。表中のnは対象人数を表し、プラセボは有効成分を含まない比較用の薬を指します。推定値は実測データをもとに統計的に求めた値、観測値は実際の測定結果です。

試験 薬(日本の販売名) 対象・n 週 体重 脂肪量 除脂肪量 プラセボ 出典番号
STEP 1・DXA セマグルチド2.4mg(ウゴービ) BMI40以下の一部集団140(薬95/対照45);kg評価83/39 68週 −15.0% −19.3%;−9.3kg −9.7%;−5.8kg 体重−3.6%;脂肪−1.5kg、除脂肪−1.8kg 出典1;%は公表推定値、kgは登録の観測値
SURMOUNT-1・DXA チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド) 登録255、評価160(用量統合124/対照36) 72週 −21.3% −33.9%(−15.9kg) −10.9%(−5.6kg) 体重−5.3%;脂肪−8.2%(−3.6kg)、除脂肪−2.6%(−1.2kg) 出典2;計画どおり治療を続けた場合の公表推定値
REDEFINE 1・DXA カグリセマ(日本未承認) 全体3,417例中252 68週 −26.6kg(プラセボ−3.6kg) −35.7%(−17.0kg) 除脂肪軟組織量−14.4%(−8.4kg) 脂肪−5.7%(−3.4kg)、除脂肪軟組織量−4.2%(−2.6kg) 出典3;公表推定値

(スマートフォンでは表を横にスクロールできます)

ウゴービ(STEP 1・68週)、マンジャロ・ゼップバウンド(SURMOUNT-1・72週)、カグリセマ(REDEFINE 1・68週)の脂肪量と除脂肪量の変化率。公表推定値。出典1、2、3。

この表でまず見てほしいのは、どの試験でも脂肪量と除脂肪量の両方が減っている点です。%は公表推定値、STEP 1のkgは登録結果の観測値で、対象・週・推定方法が違うため、別試験の数値で薬の順位はつけられません。カグリセマの体組成データでも、同じ数値を「除脂肪軟組織量」、つまり脂肪以外の軟らかい組織の重さとして説明しています。REDEFINE 1の論文でも、この減少幅はさらに調べる必要があると述べています。体重の減り方とともに、何が減ったのかを確認するための数字です(出典3)。

「減った体重の25%は筋肉」の読み方

除脂肪量の減少を、そのまま筋肉の減少と受け取る必要はありません。除脂肪量には骨格筋だけでなく、水分、臓器、タンパク質、ミネラルも含まれ、骨格筋はその約半分です。脂肪組織にも水分やタンパク質があるので、脂肪が減れば除脂肪成分も減ります。「筋肉以外も含めて減った重さ」と考えると、数字の意味がつかめます(出典8、10)。

割合を見るときは、何をもとに計算した数字かを確かめます。「減った体重の25%」は、20kg減ったうち5kgが除脂肪量という意味です。これはSURMOUNT-1(DXA・n=160、72週、プラセボ比較、継続を想定した推定)の比率を使った説明用の目安。一方、STEP 1の「除脂肪量−9.7%」は、開始時に持っていた除脂肪量が約1割減ったことを表します。分母はそれぞれ、減った体重と、開始時の除脂肪量です(出典2、1)。

SURMOUNT-1では、薬を使った群もプラセボ群も、減った重さの内訳は同じ割合でした。DXA解析(n=160、72週、計画どおり治療を続けた場合の推定)では、脂肪約75%・除脂肪約25%です。減量幅の大きい人ほど、小さい人より脂肪の占める割合が高くなっていました。体重が大きく減ったことと、筋肉ばかりが減ったことは分けて考えます(出典2)。

研究全体で見ると、除脂肪量などが占める割合は、おおむね4分の1から3分の1程度です。インクレチン系の薬を対象にした35の無作為化比較試験(RCT)では、総減量に占める筋肉関連指標の減少は中央値28.3%でした。半数の研究は15.9〜39.9%の範囲で、期間や比較相手も異なります。食事制限のみでも除脂肪量は総減量の10〜30%を占めます。薬を使っても使わなくても、減る体重の一部は除脂肪量で、GLP-1薬での割合は食事だけの減量と重なる範囲です(出典5、4、9)。

薬別の目安は、チルゼパチドで約4分の1、セマグルチドで約3分の1です。この違いを減量幅で説明できる可能性があるとする見解も、減量幅だけでは説明できないとする解析もあり、薬と減量そのものの影響はまだ分けきれていません。それでも、運動を併用した減量では除脂肪量の割合が下がる点は共通しています。食事に運動を組み合わせる具体的な方法は第5章でお伝えします(出典1、2、7、42、4〜6)。

筋肉の「量」と「力・質」は別

筋肉の量が減っても、筋力や筋肉の質は保たれた、あるいは改善したという報告が多くあります。SURPASS-3 MRI(2型糖尿病、n=246、52週、対照インスリンデグルデク)では、チルゼパチド統合群で太ももの筋肉の体積が減る一方、筋肉内の脂肪は改善しました。筋力・身体機能は測っていないものの、体積の減少は体重変化から予測される範囲でした。筋肉の大きさだけでは、その中身の変化までは分からないのです(出典11)。

実際の動作や握力を調べた研究では、筋肉の量と力で異なる変化が報告されています。STEP UP MRI副次解析(n=55、72週)は少人数で、国内未承認用量7.2mgも含む研究です。セマグルチド統合群ではプラセボ群より筋肉内の脂肪が減り、椅子から立ち上がる回数は変わりませんでした。実臨床の後ろ向き研究ではセマグルチド群も生活習慣群も握力の実測値を維持し、SEMALEANでは握力が増えています。SEMALEANは対照のない単施設研究で、対象は開始時BMI46.3の集団です。筋肉量と動作は別々に確かめます(出典12〜14)。

「階段がつらくなった」と感じるなら、その感覚も診察で伝える価値があります。STEP 1とSURMOUNT-1では、患者が答える身体機能の質問票はプラセボより改善しました。ただ、これは客観的な筋力測定とは別で、承認薬の第3相では筋力・身体機能の実測がほぼなく、長期のフレイルへの影響も未解明です。数字だけで筋力が落ちたと決めず、階段や物を握る動作、椅子からの立ち上がりも合わせて確かめます(出典1、2、4、5)。

3. なぜ筋肉が減るのか?

食べる量が減り、タンパク質という筋肉の材料と、体を動かす刺激が不足することが主な理由です。薬が筋肉を直接壊す証拠は示されていません。

筋肉が減る理由を考えるときは、まず食事量と活動量に目を向けます。ヒトの骨格筋にはGLP-1受容体(GLP-1の信号を受け取る部分)がなく、薬の影響は間接的なものです。エネルギーが不足すると、体内で筋タンパク質を作る働きと分解する働きの釣り合いが崩れます。短期の強い食事制限では作る量が減り、長期の中等度の制限では分解が進む側に傾きます。食べる量が減ったときに筋肉にも変化が起こるのは、こうした仕組みがあるためです(出典10、16)。

食欲が落ちた方の診察では、食事全体の量と一緒にタンパク質も減っていないかを確かめます。米国のGLP-1使用者60人を対象とした横断調査(ある時点での調査)では、体重あたりのタンパク質摂取量が1.2g/kgに届いていた人は43%でした。持病や活動量不足も重なると、筋肉が減るリスクは高まります。食欲が抑えられている時期ほど、食べる量だけでなく内容も振り返ります(出典4、10、17)。

食事と筋トレを一緒に勧めるのは、筋肉を作る働きの両方を支えるためです。短期試験では、エネルギー不足で低下した筋タンパク合成が筋トレで回復し、運動後にタンパク質をとるとさらに高まりました。別の食事制限試験でも、標準量の群では食後の合成が低下したのに対し、高タンパク質群では維持されています。食べる量が減った時期と、階段や歩行がつらくなった時期を書き留めておくと、診察で食事と活動の変化を一緒に振り返れます(出典16)。

代謝が落ちてリバウンドしやすい体になる?

体重が減れば、安静にしているときに使うエネルギーも減ります。薬そのものが、体重の変化とは別に代謝を落とす証拠は示されていません。実臨床のセマグルチド研究でも、安静時の消費の低下は生活習慣群と同程度でした。やめた後の体重再増加を代謝だけの問題と捉えず、食事や運動をどう続けるかまで考えます(出典13、15)。

4. GLP-1治療中に筋肉が減りやすい人と、サルコペニアのサイン

筋肉が減りやすいのは、高齢の人、タンパク質が不足する人、急に体重を落とす人、運動不足の人です。2型糖尿病がある人、閉経期の人、標準体重に近い人も、減量中の筋肉量や動作の変化に気を配ってください。

  • 高齢者の減量では、年齢に加え、食事と運動の状況を合わせて判断します。50歳以上の過体重・肥満者を対象とした52研究では、減量の15%以上が除脂肪量だった研究は、食事制限のみで81%、運動併用で39%でした。SURMOUNT-1では65歳以上の参加者は少数で、その範囲では減量に占める除脂肪量の割合は増えませんでした(出典18、47、2)。
  • 薬を使っているかにかかわらず、タンパク質が少ない人では、加齢とともに筋肉が減ることにも気を配ります。観察研究では、タンパク質を多くとる群の除脂肪量の減少は、少ない群より約4割小さく、日頃の食事を確かめる理由になります(出典19)。
  • 急な減量での除脂肪量の減り方は研究によって異なります。食事制限の強さと具体的な数値は第5章③で説明します(出典20)。
  • 2型糖尿病がある高齢者では、糖尿病がない人より筋量の減少が大きく、血糖とともに筋肉の経過も確認します(出典21)。
  • 閉経移行期には脂肪が増え、除脂肪量が減る変化もみられます。体組成が変わる理由は、薬だけにあるわけではなく、閉経の時期も判断する材料になります(出典22)。
  • 運動不足と食事量低下が重なると、筋肉の材料と使う機会の両方が不足します(出典4、10)。
  • 標準体重に近い人の大幅な減量は、疲れやすさや筋肉量の低下につながるおそれがあります。処方医とまず話し合うのは、減量そのものが必要かどうかです。
  • 腎臓の病気がある人は、タンパク質を増やす前に主治医と摂取量を決めます(出典23)。

高齢のご家族が使っている場合も、筋肉量と合わせて、食べる量や歩行・立ち上がりの変化を記録すると、次の診察で日常生活の様子まで伝えられます。

筋肉が落ちているサイン

階段がだるい、物を握りにくい、椅子から立ち上がりにくいと感じたら、体重とは別の変化として診察で伝えてください。髪が抜ける、肌の張りが落ちた、顔まわりが急にやせたときも同様です。減量ペースや食事の内容、血液検査を見直すきっかけになります。

サルコペニア肥満は、過剰な脂肪と筋量・筋機能の低下が重なった状態を指します。国際的な定義でも、判定には筋力や身体機能の測定が求められています。見た目や体組成計の表示だけで判断せず、体をどれくらい動かせるかまで確かめるという考え方です(出典24)。

AWGS 2019基準(アジアのサルコペニアの判定基準)では、握力が男性28kg未満・女性18kg未満、5回椅子立ち上がりが12秒以上などを簡便指標としています。下腿周囲長(ふくらはぎの周囲の長さ)は、男性34cm未満・女性33cm未満がスクリーニングの目安です。これらは糖尿病や日本のサルコペニア肥満の評価にも取り入れられ、筋肉の量と働きを合わせて確かめるために使われます(出典25)。

家庭用体組成計の数字は、水分状態でも動きます。家庭用の機器も使うBIAは、電気の通り方から体組成を推定する方法です。日本人の糖尿病研究では、除脂肪量の減少は主に体水分の減少によるものでした。表示が下がった日は、食事・水分・体調も一緒に記録しておくと、数値が変わったときの様子を診察で振り返れます(出典26)。

5. GLP-1治療中の筋肉量を保つには?タンパク質・筋トレなど私が診察で伝える5つの対策

対策は、タンパク質の確保、筋トレ、減量ペースの見直し、用量の調整、診察での筋肉量と血液検査の確認です。食事・運動を続けられる状態に整え、体重の減り方と症状に合わせて治療を調整します。

タンパク質、筋トレ、減量ペース、用量調整、診察で確認する対策。厚生労働省ガイド2023の週あたりの筋トレと肥満症診療ガイドライン2022を参照。試験比較ではなく診療方針。出典27、30、36。

①タンパク質を毎日の食事で確保する

私は、体重1kgあたり1日1.0〜1.2g程度をタンパク質の目安として伝えています。食欲が減ったときほど、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品が食事に入っているかを振り返ると、不足しているものに気づけます。

食事摂取基準での成人女性の推奨量は1日50gですが、これは健康な人を対象とした基準です。減量中は筋肉を作る働きが低下しやすいため、それより多めを目指す理由があります。国内の高齢者肥満症の指針では1.0g/kg(目標体重)以上、サルコペニアの指針では1.0g/kg(適正体重)以上が目安です。どちらも運動との併用を勧めており、食べる量と体を動かす習慣を一緒に整えていきます(出典28、16、27、24)。

海外の総説では、減量・維持期に1.2〜1.6g/kg/日、GLP-1治療の専門家合意では1.2〜1.5g/kg/日が目安とされています。高齢者向けの提言でも、健康状態や運動に応じた調整を勧めています。診療ではこうした高めの目安を一律に当てはめず、腎機能・年齢・実際に食べられる量から、その人の目標を決めます(出典29)。

1食あたり約25〜30gは、海外の総説で食欲や体重管理に有利とされる目安ですが、一律の目標にはせず、診察で決めた1日量を各食に分けます。腎臓の病気がある方は、主治医と摂取量を調整します(出典29、23)。

食欲がなくて食べられないとき

まとまった量を食べにくい日は、少量を回数に分け、ヨーグルト・豆腐・卵・牛乳などの食べやすいものや、液体に近い形を選べます。食事だけでは足りない分を補うには、プロテイン(粉末)も選択肢です。まずは、今の食欲でも口にできるものから食事を組み立てます。

吐き気が強いときは増量を急がず、同じ用量の継続や症状への対応を処方医と相談し、食事がとれる状態を整えます。吐き気・便秘などの消化器症状への対応には、漢方の併用も選択肢です。副作用への対応と用量調整・対面切替も参考に、食事と水分がどれくらいとれているかを書き留めておくと、診察で量や症状を具体的に伝えられます。

②筋トレは自分の体重を使う動きから

筋トレを始めるなら、家で続けられる動きからで構いません。厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023では、筋力トレーニングを週2〜3日勧め、腕立て伏せやスクワットも含めています。学会の指針でも筋トレを勧めており、糖尿病では連続しない日程で行います。特別な器具を使わなくても、自分の体重を負荷にした運動から取り組めます(出典27、30)。

減量中の筋肉を考えると、有酸素運動に筋トレを加える意味があります。高齢者を対象にした試験では、有酸素運動だけの群より筋トレを含む群で除脂肪量の減少が小さく、閉経前女性でも筋トレ群で維持した報告がありました。高齢肥満者のDXA評価をまとめたメタ解析(複数の研究結果を統計的にまとめる方法)では、6 RCTから、食事制限のみと比べ筋トレ併用で除脂肪量の減少を93.5%防ぐと推定しています。有酸素運動だけで済ませず、筋肉に負荷をかける動きも勧める理由はここにあります(出典31、18)。

セマグルチド・チルゼパチドに筋トレを組み合わせたRCTの結果は、まだ公表されていません。一方、薬と計画的な運動の併用を調べたネットワークメタ解析(複数の治療を研究間で比較する方法)では、各単独より体重・脂肪量などへの効果が大きくなりました。S-LITEでは、中止後も薬単独群との差が残っています。今の薬と筋トレを直接組み合わせた結果はこれからですが、治療中の方は中止後も見据えて、続けられる運動を生活に取り入れます(出典34、32、33)。

食事や水分がとれず動作もつらいときは、運動を増やす前に処方医へ症状を連絡してください。食べられる状態を整えたうえで、続けられる動きを処方医と決めます。

③減量ペースを食事や体調と一緒に見る

減量ペースは、体重の数字と食事・体調を並べて決めます。肥満症診療ガイドライン2022の目標は3〜6か月で現体重の3%。CDCでは、週0.5〜1kg程度の緩やかな減量は急な減量より維持しやすいとしています。3%は肥満症診療の減量目標、週0.5〜1kgは一般的な減量速度の目安で、両方を同時に達成する指示ではありません。実際には、食事・水分の摂取量、食欲・吐き気・便通などの症状、体重の経過から、診察で個別に決めます(出典27、35)。

食事を強く制限したときの筋肉への影響は、研究によって違います。500kcal/日・5週の超低カロリー食と、1,250kcal/日・12週の低カロリー食を比べた研究では、減量は−9.0kg対−8.2kgでした。体重の減少は近くても、除脂肪量の減少は8.8%対1.3%と異なります。一方、急速・緩徐減量のメタ解析では、除脂肪量の減少に有意差(統計的に明確な差)はありませんでした。速さだけで決めず、食べられているか、体調に無理が出ていないかも判断する材料にします(出典20)。

「順調に減っているのに疲れやすい」と感じたら、減量ペースと目標の考え方も参考に、体重の記録と体調の変化を並べてみると、次の診察で相談したい点が見えてきます。

④用量は体重の減り方と症状で判断する

薬の量を決めるときに優先するのは、増量の予定より、体重の減り方と症状です。マンジャロの添付文書7.4では増量の必要性を慎重に判断し、8.9では過度の体重減少に対して減量や中止を考慮するとしています。ゼップバウンドとウゴービでも、副作用などで続けにくい場合は減量や増量の延期を検討します。食事療法・運動療法を続けながら、無理なく治療できる量に調整するという方針です(出典36)。

体重の減り方と消化器症状を見ながら、増量を急がないのが私の方針です。用量や増量ペースと除脂肪量の関係を直接示したデータは、まだありません。日本人の非糖尿病の肥満n=112を対象に、チルゼパチド2.5mgと5mgを6か月比較した前向き非ランダム化研究でも、骨格筋量の減少は同程度でした。これは用量を無作為に割り当てず、その後の経過を追う研究です。用量の数字だけから筋肉への影響を決めず、食事がとれるか、症状が続いていないかを確認して判断します(出典37)。

⑤筋肉量と血液検査まで確認する

診察では、筋肉量・体組成に加え、血糖・肝機能、既往歴、併用薬を確認します。体重だけで増量を決めず、食事と動作の変化、やめた後の生活まで含めて治療を組み立てます。体重が減った喜びと、疲れやすくなった不安が重なっているなら、その両方が治療を考えるための情報です。

薬は生活改善を後押しする「ブースター」という位置づけです。すでに治療中で筋肉量や食事量が気になる方も、今の目標と続け方を見直す相談ができます。これから始める方は、肥満症で承認された薬について、筋肉量と血液検査まで診る医師と開始時の目標や中止後の計画を話し合っておくと、治療中に何を確認するかが明確になります。

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6. やめたら筋肉と体重はどうなる?

薬をやめると体重は戻りやすくなります。食事減量の研究では、再増加時に戻る量は筋肉を含む除脂肪量より脂肪が多い結果でした。GLP-1薬の中止後の体組成を追った試験はリラグルチドの1本で、除脂肪量は全群で同程度に増え、運動併用群は薬単独群より脂肪量が少ない結果でした(出典38、39、32)。

薬をやめた後は、体重の戻り方まで見ていきます。STEP 1延長では、中止1年で減量分の約3分の2が戻りました。SURMOUNT-4では、36週までチルゼパチドを使ったあと、中止した群は+14.0%、続けた群は−5.5%と、体重が異なる方向に変化しました。どちらも体組成の記載はなく、セマグルチド・チルゼパチドで中止後の体組成を追った試験はありません。戻った体重の内訳までは分からないため、体重とともに食事や動作の経過も確認します(出典38)。

体重の回復と、失った除脂肪量の回復は別です。閉経後女性n=78を減量期と再増加期で比べた食事減量研究では、脂肪1kgあたりの除脂肪量は、減量期に0.26kg減り、再増加期には0.12kg戻りました。同じ人たちを追ったこの結果からも、体重の増減だけでは筋肉の回復まで判断できないことが分かります(出典39)。

閉経後女性78人の食事減量研究。脂肪1kgあたり除脂肪量は減量期0.26kg減、再増加期0.12kg増。GLP-1薬の試験ではない観測値。出典39。

この図も、除脂肪量が再増加時に戻りにくかった高齢者の観察も、薬の試験ではなく、減量後の体の変化を考えるための研究です。除脂肪量の不足が食欲を刺激し、脂肪の蓄積が先行するという仮説があります。減量と再増加の反復も筋量・筋力低下のリスクと考えられています。減って戻ることを繰り返すほど、筋肉が減り、脂肪が増える方向に傾く可能性があるため、減量後の生活まで見通しておきたいところです(出典39、40、4)。

リラグルチドのS-LITEでは、中止後1年・104週に追跡した109例について、薬・運動・併用・プラセボ各群の体組成をDXAで調べています。運動を併用した群は薬単独群より脂肪量が少なく、中止前から続けられる運動を習慣にしておく意味があります(出典32)。

やめた後が心配な方とは、治療を続けている今から、食事・運動・睡眠を整える方法を考えます。診療でも、タンパク質や筋トレが不十分なまま中止し、体重は戻ったのに筋肉量は戻らなかった、という経過を診てきました。主治医と段階的な減量・中止を相談しながら、薬をやめた後も続けられる食事と運動を生活に組み込んでいきます。

7. 研究の最前線:除脂肪量を減らさずに体重を減らす薬は出るのか

除脂肪量の温存を狙う薬は第2相の開発段階です。ビマグルマブについて、日本の施設で肥満症を対象に実施された試験はありません(出典42〜44)。

ビマグルマブは、アクチビンII型受容体に結合し、アクチビン・ミオスタチンの信号を遮断するヒト抗体です。BELIEVEは、糖尿病のない肥満・過体重の507人を対象に、単剤・併用・プラセボを比べた第2相試験でした。日本は参加しておらず、参加者にも担当者にも使う薬を知らせない二重盲検で、体重や体組成の変化を調べています(出典41、42)。

BELIEVEでは、ビマグルマブを12週ごとに静脈への点滴で投与しました。使う薬を知らせる非盲検の延長を含む72週の結果は、治療を続けた場合を推定した公表値です。体重・脂肪量・除脂肪量を並べると、それぞれの変化を分けて確認できます(出典42)。

群 体重 脂肪量 除脂肪量
ビマグルマブ 30mg/kg 単独 −10.8% −28.5% +2.5%
セマグルチド 2.4mg 単独 −15.7% −27.8% −7.4%
高用量併用 −22.1% −45.7% −2.9%

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この結果で増えたのは、DXAで測った除脂肪量です。同じ72週の推定で、減量に占める脂肪はビマグルマブ単独100%、セマグルチド単独75.6%、高用量併用92.2%でした。除脂肪量の増加を、筋肉や筋力の増加とそのまま受け取ることはできず、ここでも「組織の重さ」と「体の動かしやすさ」を分けて考えます(出典42)。

BELIEVEでは、筋けいれん、下痢、ざ瘡(にきび)が報告され、治療を中止した人もいました。48週時点で筋けいれんが出た人は、高用量のビマグルマブ単独で約4人に3人(73.7%)、高用量併用で63.6%です。高用量のセマグルチド単独では8.9%、プラセボでは5.5%でした。体組成の変化と合わせて、症状が出た人や治療を続けられた人についても確認する段階です(出典42)。

米国の製薬会社イーライリリー・アンド・カンパニーが主導するチルゼパチドとの併用を調べる第2相では、糖尿病のない肥満・過体重の人に両剤を皮下投与します。2026年10月4日時点で、結果の公表と第3相開始の発表は確認できません。日本で計画された、糖尿病を合併する肥満の人を対象とした併用試験は、参加者を組み入れる前に取り下げられました。海外で進む研究と、日本での実施状況は分けて確認します(出典43、44)。

ビマグルマブの作用・試験結果・副作用の解説では、体重・脂肪量・除脂肪量の変化を詳しく取り上げています。筋肉量と筋力の違いや、日本での開発状況もまとめました。

別の会社も、第2相でミオスタチンを抑える抗体をセマグルチドに加え、除脂肪量の減少を抑えたと公表しています。3剤を併用した群では中止が多く、死亡も報告されました。企業の公表資料だけでは薬との因果関係は判断できず、体組成への効果と安全性の両方について、詳しい評価を待つ段階です(出典45)。

「筋肉を減らさずにやせられる薬があれば」と思う方もいるでしょう。研究を評価するうえでは、実際の骨格筋と除脂肪組織をどう区別するか、中止後をどう調べるかについて、規制上の基準がまだ定まっていません。研究の進展を待つ間も、今の食事や筋トレ、減量ペースは見直せます(出典46)。

8. 糖尿病専門医としての考え

筋肉が減るという理由だけで中止せず、減少を抑える食事・運動と治療の調整で続けられるかを判断するのが私の考えです。体重だけを見る外来にはしません。

体重が順調に減ることを喜んでいる間に、筋肉量まで減っていた患者さんを、診療で何度も診てきました。減量できたという実感と、筋肉量を保てているかどうかは別です。増量を急ぐ、体重だけを見る、やめ方を決めずに始める。私は、そうした進め方を見直したいと考えています。

「体重は減ったけれど、今のまま続けてよいのか」と迷っている方とは、これまでの経過から振り返ります。診察では、過去の減量方法とその後の戻り方、現在の薬、体重・血糖の経過、症状をもとに目標を決めます。続かなかった食事や運動も、今度は何を変えれば続けられるかを考える手がかりです。

当院では消化器症状に合わせて用量を調整し、日本東洋医学会に所属する私が漢方の併用でも症状への対応を支えます。2023年4月以降、マンジャロ(チルゼパチド)を1,000例以上に処方してきました。全国対応のオンライン診療から、症状や検査の必要性に応じて対面診療・血液検査へ切り替えます。

9. よくある質問(FAQ)

体組成計の表示だけで筋肉の減少量は決まらず、食事量と動作の変化も合わせて診察で確かめます。

Q1. 筋肉だけが落ちる薬ですか?

違います。主要試験では、脂肪の減少が除脂肪量の減少を上回りました。除脂肪量には筋肉のほかに水分や臓器も含まれるので、「減った分はすべて筋肉」と考えず、何を測った数字かを確かめます(出典1、2、8)。

Q2. 落ちた体重の4分の1は筋肉ですか?

その説明は、筋肉だけでなく除脂肪量の割合を指しています。SURMOUNT-1では、薬とプラセボで減量の内訳が同じでした。個人の筋肉の減少量ではなく、試験に参加した人たちの減った重さの内訳を表す数字です(出典2)。

Q3. 自分の筋肉は何kg落ちますか?

個人の筋肉の減少量は予測できません。減った体重に試験の比率を掛ける計算は、水分なども含む除脂肪量の概算です(出典8、10)。

Q4. タンパク質は1日に何g必要ですか?

私は、体重1kgあたり1日1.0〜1.2g程度をタンパク質の目安として伝えています。腎臓の病気があれば主治医と摂取量を調整し、決めた量を各食に分けてとります(出典23)。

Q5. プロテインは飲んだほうがいいですか?

食事で足りない分を補う選択肢の一つです。食事で足りていれば追加する必要はなく、腎臓の病気がある人は使う前に主治医と摂取量を決めます(出典23)。

Q6. 打った日に筋トレしてもいいですか?

ウゴービとゼップバウンドの添付文書は、投与中も食事療法・運動療法を続けるよう求めています(出典36)。筋トレをするか決めるときに見るのは、注射した日かどうかより、吐き気の有無と食事・水分がいつもどおりとれているかです。食事や水分がとれていない日は運動を増やさず、処方医に症状を伝えて対応を相談します。注射当日の過ごし方はマンジャロの使い方と当日の過ごし方で説明しています。

Q7. 食欲がなくて食べられません。

少量を回数に分け、固形がつらければ液体に近い形も選べます。増量を急がず症状に対応するため、吐き気の強さと食事・水分がどれくらいとれているかを処方医に伝えると、用量や食べ方を相談できます。

Q8. やめたら筋肉は戻りますか?

元どおりになるとは予測できません。セマグルチド・チルゼパチドで中止後の体組成を追った試験はありませんが、リラグルチドのS-LITEでは中止後に除脂肪量が全群で増えました。中止後も体重と筋肉量、動作の変化を記録しておくと、ご自身の経過を診察で振り返れます(出典32、38)。

Q9. 高齢の親が使っています。何を見ればいいですか?

食事の量と内容、歩行や立ち上がり、筋肉量の経過が確認したい点です。年齢だけで中止を決めず、食事と運動を続けられているかを診察前に一緒に振り返ると、日常生活の様子まで医師に伝えられます(出典2、18、47)。

Q10. 体組成計の筋肉量が減りました。本当に筋肉が減っていますか?

表示だけでは減少量を確定できません。水分状態にも影響されるので、測定した日の食事・水分と、疲れやすさも記録して診察に持参してください(出典26)。

Q11. 筋肉痛は副作用ですか?

筋肉痛だけでは、副作用かどうかも、筋肉量が減っているかどうかも判断できません。痛む部位・始まった時期・注射部位との関係を記録し、処方医に伝えてください。症状の切り分けはマンジャロの危険性・副作用の解説で説明しています。

Q12. 筋肉を落とさない新しい薬は、日本で使えますか?

ビマグルマブは日本未承認で、第2相で研究中です。国内の肥満症の併用試験は参加者を組み入れる前に取り下げられ、実施には至りませんでした。今取り組める対策は食事と筋トレです(出典42〜44)。

Q13. マンジャロ・ゼップバウンドとウゴービで筋肉の減り方は違いますか?

減った体重に占める除脂肪量の目安は、マンジャロ・ゼップバウンドのチルゼパチドで約4分の1、ウゴービのセマグルチドで約3分の1です。対象や期間が違う試験の結果で、直接比較ではなく、個人の筋肉の減少量を示す数字でもありません。治療は筋肉量と体調の経過を見て判断します(出典1、2、36)。

Q14. マンジャロで代謝は落ちますか?

体重が減れば消費するエネルギーも減りますが、それとは別にGLP-1受容体作動薬が代謝を落とす証拠は示されていません。セマグルチドでは、安静時の消費低下は生活習慣群と同程度でした。これはマンジャロ固有の結果ではなく、セマグルチドを使った人での観察です(出典13、15)。

10. まとめ

主に減るのは脂肪ですが、筋肉を含む除脂肪量にも変化が起こります。対策は食事と筋トレを続け、体調に合わせて減量ペースや用量を調整することです。

階段のだるさや体組成計の表示が気になった今は、治療を見直す機会です。体重が減ったことと、日常生活で困っていることを一緒に伝えられるよう、次の診察に向けて準備してください。

  • □ 各食にタンパク質を含む食品を入れているか確認した
  • □ 続けられる筋トレとつらくなる動きを整理した
  • □ 食欲・症状と体重・筋肉量の経過をまとめた
  • □ 血液検査と増量・中止について相談することを決めた

当院では、筋肉量と血液検査を診ながら、治療の始め方からやめ方まで相談に乗ります。

ご利用にあたっての注意 情報提供を目的としています。効果と副作用には個人差があります。処方の適否は診察で医師が判断し、処方できない場合があります。ビマグルマブは日本未承認で、本記事は使用を勧めるものではありません。気になる症状や治療の変更は医師と相談してください。

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監修者

監修医 小林正敬(まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 院長/日本糖尿病学会 糖尿病専門医)

小林 正敬(こばやし まさたか)|まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院(東京・飯田橋/糖尿病内科・代謝内分泌内科・内科)代表理事兼院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医(第06341号)、日本内科学会 総合内科専門医(第022910号)、日本糖尿病協会療養指導医、日本東洋医学会所属。糖尿病・代謝・内分泌を専門とし、GLP-1/GIP受容体作動薬を用いた治療と漢方診療に対応しています。院長紹介はこちら (監修日・最終更新:2026年10月4日)

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参考・出典

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